グラビア・アイドル一ノ瀬文香のカミングアウトに思う。

 グラビア・アイドルの一ノ瀬文香が、光文社「FLASH」2009年4月21日号において、レズビアンであることをカミングアウトした。

 もっともそれまで私はこの人のことを知らず、たまたまコンビニで(藤川ゆり議員の記事目当てに)掲載誌を取ったのだが、「男を欲情させるはずのグラドルが、男性経験ナシのレズビアン!」「女のコの9割はイカせてあげられるよ」などといった見出しと共に、全裸の一ノ瀬が女性モデルを愛撫する扇情的な写真が載っている。よく見ると一ノ瀬自身の乳首やヘアーは巧妙に隠されているものの、最初は新作レズAVの宣伝記事かと思ったほどである。(P60-62)

 いつぞやの百合の国の女王様と同じで“キャラ立ち”狙いの「なんちゃってレズ」のような気もしたが、プロフィールを読むと、インターネット上の漫画配信サイト「漫画ゼロワン」にて、一ノ瀬が自身の経験を元に原作を手がけた『REAL BIAN』なるエッセイ漫画を発表しているという。

 さっそく読んでみたところ、件の週刊誌の写真とは裏腹に、作画担当者・水戸雫の落ち着いたタッチの絵柄も手伝って、実直な印象を受ける内容だった。

 併せて一ノ瀬のブログでは、今回のカミングアウトにあたっての決意と今後の抱負を綴ったエントリーが数回に亘ってアップされている。

いっちぃ〜こと一ノ瀬文香のHR

 コメント欄も開放されているが、案の定賛否両論である。当事者からの応援のメッセージも寄せられているが、やはりホモフォビックな反応も目立つ。また“好意的なコメント”にしても「いっちぃーがレズだろうと自分は一向に構いませんよ」「アニメではそういう系統の作品も度々見てきたので『免疫力』はついてます」「これからはレズビアンを笑いに変えようぜ」などといった、どこから突っ込んでいいのかさえわからないようなものが多く、「カミングアウトしていきなり、こんなに応援メッセージをいただけると思っていませんでした」という本人の呑気なコメントとの温度差を感じてしまう。

 芸能人のカミングアウトについては様々な見方があるだろうけれど、私個人としては、まだ時期尚早なのではないかというのが正直なところだ。

 なにも一生クローゼットに閉じこもっていろと言っているわけではない。だが、今後一ノ瀬がレズビアンという看板を掲げて活動していくにあたり、一ノ瀬に対する批判は「レズビアン」というセクシュアリティに対する批判に直結してしまう。結果として、レズビアンに対するバッシングだとか、また“好意的”ではあっても無神経な物言いだとかも表面化され、いやおうなしに目に入るようになるだろう。

 それでも本人は本人なりの覚悟があってのことだろうから気にしないのかもしれない。しかし、他のレズビアンがそれらを見たらどういう気分になるか? 自己顕示欲を満たすだけでなく、見ず知らずの他人の気持ちにまで想いを馳せているだろうか? コメント欄におけるネガティブな発言を削除しないのは彼女なりの誠実さの表れとも言えるが、他の当事者にまでそのような「覚悟」を要求するのは酷というものだ。

 エントリーの内容自体も、よくよく読むと腑に落ちない点がある。

FLASHの内容について

 一ノ瀬は今回「FLASH」誌上でカミングアウトすることを決意した経緯について、

異性が好きなフリをするレズビアンが多いのは、ゲイと同じように、世の中に誤解と差別が根強くあるからです。特に、レズビアンは、ポルノのような想像しかされなく、性の対象にされがちです。今回、週刊誌でカミングアウトするにあたって、性的なことばかりにクローズアップされるだろうという覚悟はありました。そして、そのことについて触れなければ、記事として成立しないだろうということも分かっていました。それが分かるから週刊誌に限らず、メディアでカミングアウトしてこなかった方も少なくないでしょう。想像してみてください。みなさんが、いきなり見ず知らずに会った人から、「どんなエッチをしているのですか?」と聞かれることを。

 ……と前置きした上で、

誤解を解くにも差別を無くすにも、正しい現実を多くの人が見たり聞いたりしなければ始まらないと思うからです。やっぱり現状では、性的なことに興味を示す人が多いでしょう。FLASHは、購読者がとても多い雑誌です。そして、今回のカミングアウトに至るまでに、予想以上に、綿密な打ち合わせをして頂いたり、掲載前の記事や写真を確認させて頂いたりと、すごく誠意を感じさせて頂きました。FLASHと出会えたことに感謝しています。私の新しいスタートをサポートして頂いたのですから。

 ……と述べている。ちなみに記事本文によると件の写真は「実体験した女のコ同士のエッチ」を元にしているのだという。それが一ノ瀬の言うところの「正しい現実」なのだろうか。

 しかし、裏を返せば「予想以上に、綿密な打ち合わせをして頂いたり、掲載前の記事や写真を確認させて頂いたり」した上で、あのようなレズビアンに関して「性的なことばかりにクローズアップ」した、まさしく「ポルノのような想像しか」喚起しない記事を了承した以上、一ノ瀬はその責任について何の言い逃れもできないということである。

 俗に「カミングアウト・エリート」という言葉がある。レズビアンは“たまたま”同性を好きになるのではない。だが、レズビアンの一ノ瀬は“たまたま”グラビア・アイドルとして世に出たがゆえに、カミングアウトのステージを与えられた。そのことによって、もし一ノ瀬個人が自己実現を果たしたとしても、それは必ずしも一ノ瀬が「最終目標」として掲げる「世の中のみんなが、個性を尊重し合って、それぞれに合った幸せの形を追求できるようになることに貢献すること」を意味するわけではない。

(2009年5月3日 追記)

 大幅に加筆修正してサイトにアップしました→「芸能人のカミングアウト」の意義を考える