ゲイが読む「やおい」

 以下のページを加筆修正しました。

 ゲイは腐女子よりも“偉い”のか?〜桃井アロム『ゲイ恋リアル』

 しばらく入手困難だったのが今年の3月にようやく文庫化された、ゲイ団体「ピアフレンズ」代表・石川大我の著書『ボクの彼氏はどこにいる?』(刊:講談社)の中に、「やおい」に関する好意的な記述があります。ゲイ当事者の「BL観」を知る上で、桃井アロムのような悪意に満ちた見解ばかりを取り上げるのは公正さに欠けると判断し、当該箇所を引用します。
(なお、本来であればオリジナル主体の「BL」と二次創作主体の「やおい」は意味合いが異なるのですが、その違いはここでは関係ないので無視します)

(P190-193)
「あと、困ったって言うたら、ようけ『やおい本』持ってるやん。だから友だちが来たときが大変やねん。本見られたらやばいし、風呂とかめっちゃ急いで入らなあかんねん」
(中略)
「ところで『やおい本』って何?」
 ボクは初めて聞くその言葉が気になり、トシに聞いてみた。
「それはなあ、なんていって説明したらいいやろな……。少女マンガがあるやろ。あれの主人公がみんな男なんよ」
 トシが説明しにくそうに答えると、トムが横から、
「『やまなし、おちなし、意味なし』の頭をとった呼び名で別名『BOYS LOVE』とも呼ばれんねん。内容は男のコ同士の恋愛を描く小説やマンガのことやね」
 と的確に説明した。
 この「やおい本」というヤツは、「美少年の恋愛」を描いたものが多いそうで、基本的に男性読者はあまりいない。だから、本を買うのはなかなか勇気がいる行動らしいのだ。
「最近、やおい本買ってへんわぁ」
「『まんだらけ』行ってみよか?」
 トムは嬉しそうに提案した。
「しょうがないおっちゃんやねぇ」
 眞沙希の一言でマンガ専門の古本屋「まんだらけ」行きが決定した。
 梅田駅前から歩いて五、六分のところに「まんだらけ」はあった。広い店内には所狭しとマンガが並んでいる。格闘モノ、少女モノ、スポーツモノ、SFモノなどなど、マンガをほとんど読まないボクには、どこに「やおい本」があるかさっぱりわからない。どれも同じに見える。トムの後ろにくっついていくしかない。
「おー、着いたで。ここが『やおい本』コーナーっす」
 トムは慣れた手つきで棚に並んでいる本を見て言った。
「しかし、あれやなぁ。こんな堂々と、やほい見たん初めてやわ。いつもはこそーっと買うねんけどな」
 恐らくボクが三省堂で同性愛関連の本を買うのに一人で苦労したときと同じなのだろう。
 しかし、「仲間」がいることはすばらしい。本屋にいる人たちは多くが一人か二人で来ている。だから、そこに四人で乗り込めば「大集団」だ。もはやマイノリティではない。
 ボクはトムと一緒になって、いろいろな本を取ってはパラパラとめくってみたりした。
「あー、これが『やおい本』ね。すごいねぇー。なんかこれぞ恋愛ってカンジだよ」
「いやいや、こっちのほうがすごいで。ほら」
やおい本コーナー」で立ち読みをすることは、いわば「僕はゲイですよ」と言っているようなもの。近づいてきた女のコはジロジロとこちらを見ていた。
 しかし、これがなんとも楽しい。不思議なもので、集団でいるだけで、たとえ笑われても「あの人笑ってたよ」と言って笑い返すことができる。同じ想い、体験をもつ「仲間」はこんなにもボクの気持ちを変えてくれたのだ。
 そのとき買った三冊の「やおい本」は大切な思い出。今でも大切にしまってある。

 なお、本書はゲイ当事者ならではの経験と実感に根ざしたリアルな筆致もさることながら、インターネットという革新的なメディアを得たことによってゲイ・コミュニティが急速に進化を遂げていく過程が興味深く描かれています。また、かつての当事者の手記に多かれ少なかれ見受けられた悲壮感は皆無で、石田衣良の解説にもあるとおり、全体を通して爽快な読後感を残すあたりも、世代の移り変わりを反映しているかのようです。

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